2012年10月 冬青社刊
大型本 上製本カバー付 写真点数42点
3675円(税込) ISBN978-4887731356
唐突に幼い頃の冬の記憶がある。おぼろげではなく、今でも雪を踏む感触まで憶えている。

妹が母の背におぶわれていたから、僕はまだ4歳だ。
夕刻、母は妹を背負い、僕の手を引き雪の米沢の町を歩いている。
どこかに寄るとか、買い物をするわけでもなく、ただ歩いている。
小さな繁華街だから何度も同じところを行ったり来たりしている。
母の手を離すと置いていかれるような気がして手をしっかり握っていた。
(「雪の日」より)
2011年9月 えい出版社刊
本体価格680円+税 ISBN978-4-7779-2083-9
3日間テレビとネットの情報を入れただけで、どうしようもなく気が滅入ってきた。
僕の撮る写真なんて、こんなときには何の役にも、何の助けにもならないじゃないか。

でもね、いつだって、どんなときだって、
僕ができることはひとつ。

「写真の話、しようよ」
(まえがきより)
2007年7月 冬青社刊
A5判変型 並製本カバー付 写真点数200点
5000円(税込) ISBN978-4-88773-073-1
なぜ旅先で写真を撮るのだろう。
旅の記録を撮っているつもりはないし、自分が旅先で見たものを伝えるつもりもない。
「写真なんて撮らないで、もっと自分の目で見るべきだ」という人がいるかもしれない。
でも僕にとって写真を撮ることは見ることなのだ。旅を見るために写真を撮る。
(「旅に出る理由」より)
2007年7月 えい出版社刊
本体価格680円+税 ISBN978-4-7779-0812-71
 旅の言葉に「来たバスに乗れ」というのがある。
 誰が言ったか、誰に聞いたかはもう忘れてしまったが、とても好きな言葉だ。どこに行くかは分からないが、「目の前にバスが来たんだから乗ってしまえ」という気持ちは良く理解できる。行き先など後からついてくる。気に入った場所で降りればいいんだ。
 そんなことを日記に書いたらある人が教えてくれた。
「バスに乗れるのは、しかるべき時間にバス停の前にいるからですよ」
 ああ、そうなんだな。バスはむやみな所に止まったりしない。目の前に来たバスには意味があるんだ。そう考えることにした。
(あとがきより)
2004年8月 えい出版社刊
本体価格650円+税 ISBN4-7779-1050-5
 2003年末、眼底出血によって両眼の視力が極端に低下した。前作、『旅するカメラ』発売の翌日だった。完治は難しいと宣告されたが、3度の手術で左眼の視力だけは回復することが出来た。「人生あざなえる縄のごとし」。ようするに「人生いろいろ」だ。その時決めたことがある。ひとつは目がよくなってもう一度仕事が再開出来るようになったら、これまでの仕事を一度整理する意味で今まで撮ってきたポートレートの写真展をやろうということ。
 そしてもうひとつは生まれ育った米沢を撮ろうということだった。
(あとがきより)
2003年10月 えい出版社刊
本体価格600円+税 ISBN4-87099-949-8
 もし旅に一台のカメラを持っていけるとしたら……。
 この単純にして奥深い命題は、絶えず多くの旅する写真家を悩ませ続けているのだ。行く先々の気候や風土、そして自分自身の精神状態まで考えに入れて、出発前夜ようやく持っていくカメラが決まる。
(序文より)
2000年9月 mole刊
182mm×185mm 並製本カバー付 136頁 モノクロ ダブルトーン
3000円 (税込) ISBN 938628-46-5
ゆるやかに曲がった道の向こうには、
群青色の空に真っ白な入道雲が湧きあがっていた。
夕方、早々に食事を済ませると、桟橋まで急ぐ。
突堤には涼をもとめる人々が集まり、午後の最後の日射の中、
それぞれの時間を過ごしていた。
太陽が海に沈み切った瞬間、ポっと音をたてるように空が赤紫に染まる。
東の空は濃い青から漆黒に変わり、天空に天の川が現れた。
幾筋もの星が流れ、人工衛星が横切る。
宿から持ってきた缶ビールを開けると、深い深い嘆息が漏れた。
("午後の最後の日射 竹富島へ"より)