vol.4: ライカの話し その2

せっかく手に入れたものの、皆が言うところライカの素晴らしさがいっこうに理解できない。張り付くように見えるファインダーマスクとか、ズミクロンの描写の素晴らしさだとかまったくといって分からない。ファインダーは一眼レフのほうがちゃんと見えるし、レンズの善し悪しも六つ切りに伸ばしても他との区別がつかない。唯一、周りのカメラ好きに自慢したのはデュアルズミクロンの造りの精度だ。通称メガネと呼ばれるアタッチメントをカチリとレンズにはめ込む作業は、何度やっても飽きることはなかった。

 何度か売り飛ばそうとしたが思いとどまった。皆があれほど絶賛するのには訳があるはずだ。手に入れたM−3は、トップカバーにメーターを取り付けたと思われるキズがあるほかは、オーバーホールしてあるためか動作は完璧で満足のいくものだった。ある日これを売り物にできないようにトップカバーを耐水ペーパーとコンパウンドで梨地を削り、真鍮を出してしまった。これでもう使い込むしかなくなった。無茶なことをしたわりにはけっこうきれいで気に入っている。銀一で手に入れた厚く編んだ布製のストラップとハーフカバーを着け、いつも持ち歩くことにした。

 とりあえず自分が永年住んでいる江古田の町を撮りはじめることにした。そのころ個人商店がだんだんと消え、チェーン店が多くなってきたのが撮るきっかけとなった。路地から路地へモルタル造りの家を複写するように撮り歩いた。そうすると50ミリでは引きが足りない場合が多く、ストレスになってきた。

 そんな折、青山での仕事の帰りに新しくできたレチナハウスという中古カメラ屋に立ち寄った。なにげなくショーウィンドーを見ると、何台かのM−3用のメガネがついた35ミリが目に入った。堂々としたズミクロンの陰に口径のやたら小さなレンズが置いてある。ズマロンf3,5だった。あきらかにズミクロンより性能の劣りそうなそのレンズにどういうわけか惹き付けられ、値段が4万5千円と手ごろということもあって買ってしまった。すぐにM−3に取り付け帰り道、車の中からためし撮りをしてみた。メガネをつけたファインダーはちょっとクリアさにかけるが画角は自分の生理にピッタリときた。