vol.37:≒森山大道

ドキュメント映画「≒森山大道」を見てきた。
http://www.bbb-inc.co.jp/daido/top.html


渋谷の宮益坂上、渋谷シアター・イメージフォーラムのレイトショー。夜9時過ぎの上映にもかかわらず監督と写真評論家の飯沢耕太郎氏の対談があるということで、120人定員の席はほとんどうまっていた。


ほとんどが20代の若者で、女性のほうが若干多かった。カメラをぶらさげているのも多く、なかにはマミヤRZ67にグリップストロボを装着し首から下げていた豪者もいた。


映画は全てデジタルハンディカムでの撮影。5ヶ月間にわたり、森山大道を追いかけている。ほとんどが新宿を撮り歩く姿、そこに彼の写真と肉声がかぶる。


新宿の街を軽やかに移動しコンパクトカメラ、リコーのGR1を右手に持ちノーファインダーでバンバン撮る。もうそこら中、人であったり看板であったり、電柱の張り紙であったり、手当たりしだいという言葉がぴったりくるくらい撮りまくっている。「天才は量だ」というが納得。


カメラにこだわりはなく1眼レフよりコンパクトカメラがしょうにあうという。現在の愛機GR1は田中長徳氏からのプレゼントだと聞いたことがある。いままでの写真家人生でほとんどカメラを買ったことがなく、いつも貰い物か、借り物を使っているという。


20ちょっとのトピックスで構成されていて、その中には暗室作業の様子までふくまれている。それがこのドキュメンタリーの目玉にもなっている。僕もそれにつられて見に行った一人だ。暗室作業は写真家にとって禁断の場所。どんなことをやっているのか興味津々。


ところが、自宅の仕事机に現像バッドを並べただけの簡単なお座敷暗室で、窓に黒カーテンを引いてプリント作業をしていた。ペーパーはRCを使っている。そのへんの写真学生となんら変わるところがないではないか。


首にタオルを巻き、現像液の入ったバッドをおぼつかない足取りで台所から運ぶ姿に、会場から笑い声がもれた。あのマジックのようなプリントがこんなところで生み出されるとは。カメラといい暗室といい、このこだわりのなさは逆にスゴイといえる。


アレ、ブレが目立ち一見ラフなプリントに見えるが、氏のプリントのテクニックは凄まじいものがある。展示用に大伸ばしをするため、森山大道が焼いたオリジナルプリントとネガをモノクロのプロラボへもっていたところ、手練のプリンターが「どうしても同じようには焼けません」と音をあげ、結局オリジナルプリントを複写してネガを作り、そこから大伸ばししたという話しが残っている。


1枚だけ森山大道のオリジナルプリントを所有している(コラムvol.10参照)。ハーフ版から伸ばされた雪の夜のニューヨークは見るたびにため息がもれる。荒れた画面からは想像できないほどハーフトーンが豊富にある。



劇中にテレビのような過剰なナレーションや音楽は一切ない。唯一、忌野清志郎の歌う『不真面目にいこう』が効果的に挿入されている。音楽にあわせるように新宿を撮り歩く姿に思わずこちらまで前のめりになってしまう。


荒木経惟と評論家の西井一夫へのインタビューもいい。森山大道の人柄やエピソードを紹介しているのだが、「彼を好きなんだなー」という空気が伝わってくる。


デジタルハンディカムを使っているせいか気負ったところが微塵もない。写真から受ける印象とは違った等身大の森山大道を感じることが出来た。この映画の面白さは端々に写りこむディテールにある。部屋の様子(ミッキーなどのディズニーグッズが結構ある)やカメラの構え方(縦位置を撮るときは右手が上)、話すときの表情、立ち寄るお店。森山病(写真を志す若者の多くが氏のハイコントラストでざらついた写真に傾倒する)に罹ったことのある人は必見である。

もうひとつ、最後の方でデジカメを森山大道が使って遊ぶのだが、すぐにデジカメの本質を捕まえてしまうのは流石だ。


なによりも嬉しかったのは照れもなく「写真が好きだ」と氏が繰り返し言い続けていたこと。写真に対する思いが伝わってきて気持ちがよかった。





アクセス数が2000を越しました。ありがとうございます。6月から初めて4ヶ月半。熱心に見てくれるかたも出てきてうれしい限りです。たいした宣伝もしていませんがこのまま続けていければと思っています。



さて、2000人目はどなたでした?