vol.61:写真展

写真展終了。終わってしまえばあっという間。それでもこれまでやってきた中で一番楽しい写真展となった。来てくれた皆さんありがとうございました。


タバコが吸えてお茶が飲めて、お酒までOK。こんなにのんびりとしたギャラリーもめずらしい。会期中ずっとソファーに座って、来てくれた方とゆっくりと話しが出来た。一人、少なくとも30分、いつのまにか1時間以上も話し込んでしまった人も。TV番組「さんまのまんまスペシャル」で、さんまが入れ替わり立ち代り訪れるゲストとトークを繰り広げるが、まさにその状態。こんなにもたくさんの人と喋ったのは久しぶり。まるで自宅によんでいる雰囲気だった。

 


今回はHPを通じての告知が主だったので、どんな人達が来るかと思ったら不思議なことに僕の知り合い以外の来場者は、8割以上が女性。しかも若い。でもってかわいい(決して贔屓目ではありません)。男性も20代から30代が多く、いわゆるオジサンはとても少なかった。一度目の個展の時は「東京ウォーカー」が大きく取り上げてくれたり、FM J-WAVEで内容を放送してくれたりしたので若いカップルばかりだったし、2度目は「文藝春秋」や「日本カメラ」、NHK日曜美術館で取り上げてくれたので今度はイヤと言うほどオジサンオバサンばかりだった。今回はどういうわけなのだろう?


2度目の写真展の時は来る人来る人「これはどんなカメラで撮ったのですか?レンズは何ミリですか?フィルムは?絞りは?シャッタースピードは?印画紙は?現像液は?」うんざりするほど技術的なことばかり聞かれ少々げんなり。中でも極めつけは4×5インチの大判カメラで撮って1m×1m50cmの大きさに伸ばした写真を見て「これはライカですな!ライカで撮らなければこうはいきません」と大騒ぎしてくれたオジサンがいたことだ。


技術的な質問に飽き飽きしていた僕は、思わずいたずら心をおこして「いえ!これはコンタックスなんです。ほらG2というのが出たでしょう?あれなんです」オジサンは興奮したように「やや!コンタックスですか!そうかコンタックスか!ウーンなるほど」僕はとどめをさすように「プラナーです。35ミリのプラナーならこんなに伸ばしても大丈夫なんです」。オジサン「私もそうじゃないかと思ってました。やはりこの粒子の細やかさはプラナーですな。ヨシ!コンタックスを買って帰ろう」。


オジサンオジサン、いくらプラナーだってそんなに大伸ばしできないって。




その点、女性は写真を見るのが上手。好きな写真を見つけると本当に楽しそうに見てくれる。ギャラリーの雰囲気を楽しんでくれているのがこちらにも伝わってくる。晴れやかな顔で「ありがとうございました」と挨拶をして帰る姿を見るとこちらも嬉しくなってしまう。


今回一番感動したのは、80歳過ぎのおばあさんの2人連れ。もう終了時間を過ぎていたのだけどふらりとギャラリーに入ってきて熱心に見てくれた。一点一点「いいわねえ、いいわねえ。白黒って素敵ねえ」とお世辞ではなく心のそこから言葉が出ているようだった。最後に3人の子どもが写っているポストカードを手にとって「これ頂けるの?うれしい。額に入れて飾っておくわ」と大事そうにかばんにしまいこんだ。「いい気持ちになれたわ」とギャラリーを後にする2人を見送ってこちらまでいい気分になった。


天候も大きく崩れず、思いのほかたくさんの人が来てくれて(HP見ています、と言ってくれた人もたくさんいました)、写真集もプリントもけっこう売れて、ほとんど完璧な今回の写真展だったけれど、唯一、たった一つ、大失敗をした。


BBSでも書き込んでいたが、知り合いには「28日夜は9時までやっています」とメールで知らせしていた。本人は軽くパーティのつもりだったのだけれど、あんまり派手にしたくなかったので控えめに告知したのがアダとなった。寂しい!あまりに寂しいパーティ(とは言えないな)となってしまったのだ。




「アユミギャラリー」の居心地の良さは特筆ものだったが、今まで観てきた中で会場の雰囲気が一番すごかったのは「上田義彦」の写真展だ。上田義彦といってピンと来ない人も長年サントリーの烏龍茶のCMを撮っている人と言えば思い当たるだろう(ちなみに奥さんは桐島カレンだったりする)。


今から10年前、麻布の狸穴にあった彼のスタジオを使い、1階に垂れ幕のような大型プリント、2階に小型のプリントを配置。天井は異様に高く、旧い倉庫を改造して使っているのが窺える。全体は白で統一されていた。送られた花束の類は玄関外に置かれ、窓辺やテーブルに置かれた花は全て白いチューリップと、細部にまで完璧と言っていいほど気を配ってあった。また同時期に発売された特別限定の写真集は、ポリエステルペーパーに印刷された写真が一枚、一枚手張りで台紙に貼り付けられていた。1万8千円の価格も「安い」と思わせるクオリティの高さに即座に購入した。


展示されているプリントの美しさは「俺がやっているのはもしかして写真じゃないのかもしれない」と思わせるほどだった。人間あまりにすごいものを見せ付けられると吐き気をもようすものらしい。会場を出る時にはグッタリとなって虚ろな足どりで帰ったのを覚えている。今でも写真集をめくるとあの会場の雰囲気を思い出すことが出来る。


あれからもう二度とあのような緊張感溢れる写真展を見ていない。ただ写真を並べるだけが写真展じゃない、と空間の使い方の大事さを感じることが出来たのは幸せだった。



写真展は一度やると癖になる。楽しさで言えば写真集の出版以上。また懲りずにやりたいと思う。その時は皆さん、また会場でお会いしましょう。
(2002.5.3)