vol.67:D60その後…

日本負けちゃいました。でも返って精神的にホッと出来ます。これで試合時間に合わせて撮影スケジュールを組もうだなんて無茶なことをしないですみます。なにせ30日決勝の日は、前々からの仕事の予定が詰まっていて「日本が決勝に進んだらどうしよう」と、いらぬ心配をずっとしてたくらいですから。


「D60その後…」

早速デジカメD60を仕事で使ってみた。テスト撮影もそこそこに、買って3日後に実践投入。


よくやる仕事の中に、ビーズアクセサリーとかテディベアとかキルトなどの洋裁手芸書の本の撮影がある。


40から50ページからなる手芸作品の口絵に、20ページくらいの口絵作品の作り方の解説が付く。手順を詳しく説明するために、制作中の手元のアップを撮影しなければならない。プロセス撮影と呼んでいるが、これにデジカメを使うことにした。


手元の撮影は、カメラの角度が微妙に違うと手順が分かりづらくなる難しさがあるが、デジカメならその場で作者に確認を取れるメリットがある。製版代やスキャナの手間とコスト減もはかれる、いいこと尽くめのデジタル撮影のはずだ。


現場にバイオノートを持ち込み、D60に接続。ストロボのシンクロコードに電源コードにと、本体から伸びるコードは、まるでチューブだらけの重病患者のようだ。


撮影自体はフィルムとまったく変わらない。ライトのセッティングも同じにしたし、メインとバックのライトレシオも一緒。“パコン”(大型ストロボを発光させるとこんな音がするのだ)と撮影するとパソコンに転送。結果をモニター上で確認する。


フィルム撮影だったらポラを撮って、30秒待って確認して、段階露光を含めて4枚シャッターを切るというリズム。結果的にフィルムとデジタルの撮影のスピードはそんなに変わらなかった。


まあとりあえずトラブルもなく無難に撮影を終えたわけだが、その生データを印刷にマッチングさせる作業が残っている。持っているマシンは事務所のi-MacとバイオのA4ノート(FX11G)だけ。このデジタル時代にははなはだ頼りない。


さて、データマッチングといってもなにも分からない。そこで元アシスタント登場。現在某大手印刷会社のデジタル撮影部門に在籍している、願っても無い人材だ。さあ、いまこそ昔の恩を返す時だ!彼にi-Macでデータを作る最小限のことを教えてもらうことにした。


彼は画像データを見るなり一言


「あれっグレーチャートの写しこみは?」


「ないです…」


「エッ」


知らなかった。基準がないデジタルの世界では撮影時に基準となるグレーカードの写しこみが必須だったのだ。


まあ、そこはデジタルのプロ、限りなくグレーに近いと思われるところを見つけ出し、フォトショップのスポイトツールでグレーにする部分を決めていく。


続いてトーンカーブをS字に描きコントラストをつけ、レベル補正でハイライトとシャドウを決めていく。最後にアンシャープをかけてフォトショップEPS保存形式にして出来上がり。RGBで作ったデータは印刷会社がCMYKに変換する。通常の納品ではRGBで大丈夫だということだった。


ある程度自動処理できるものの、結局は一枚一枚開いて確認して調整してという作業は付いて回る。260枚もの大量のデータを作るのに丸々1日、時間にして10時間以上かかってしまった。撮影時間よりも長い。


同じような作業を延々繰り返す。画像をいじる作業はプリントをするくらいだから嫌いではない。没頭すると、あっという間に2時間3時間は過ぎていく。なんとなくけりをつけられずに休みなしでパソコンの前に座ってしまう。気が付くと真夜中だ。


プリント作業を長時間行うと、全身の神経がむき出しになったような気持ちになり、ちょっとした音や刺激に敏感になる。頭は冴え冴えとなり、気持ちがささくれ立つ感じだ。


対してデジタル処理を続けると、なんの刺激も感じなくなる。ボーッとしたようなどんよりとした気分になる。時間の流れも感じない。ただ目の前のモニターのみの世界になる。




ようやく260枚の作業が終了。やれやれと外付けのMOに落とそうとしたら「E-USB BRIDGEが見つかりません」の警告が出てMOを認識してくれない。何度再起動してもダメ。MOのアプリケーションソフトを再インストールしてもダメ。外付けCDRWも認識しない。データを外に出せない!


これって銀行にお金があるのにキャッシュディスペンサーが使えないのと一緒。どーする。




ならば窓口で下ろすしかない。イーサネットだ。近くに住むMac使いに助けてもらい、無事彼のi-Bookにデータを引き出すことができた。


もうクタクタ。フィルムでの撮影なら、撮影翌日に現像上がりを配達してもらって納品でお終いなのに、延々と作業が続く。案の定体の調子を崩して風邪を引いてしまう始末。


そんなに苦労したのに、10点ほどテスト印刷してもらったら仕上がりにばらつきがある。印刷に合わせてモニターの色味を調整してもう一度やり直し。


追加のプロセス撮影があったので、前回とセッティングを同じにし、今度はグレーチャートを写しこんで万全を期した。Macがいかれたのでバイオで作業することに。


ところが作業中に今度はフォトショップ5.02Jがいかれてしまった。再インストールでもどうしたわけかダメ。何度やっても起動途中でフリーズしてしまう。もうお手上げ。万事休す。


しょうがないので生データのみを整理して編集部に持っていった。「後はヨロシク」の一言を添えて。


結局、印刷会社が無事後始末を引き受けてくれることになり、今までの苦労はなんだったんだ、ということになった。


今回の作業途中、何度もMacのG4が頭をちらついた。ちょうどApple特売セール中で安くなっている。何度も販売店に足を運んだが、「パソコン買っても幸せになれない」との思いから踏みとどまった。


どうせならそのお金でどっか旅に出たほうが、パソコン買うよりずっと幸せになれそうな気がする。疲れ果てて、ボーッとした頭でそう考えた。

(2002/06/19)



生データ 仕上がり
生データ 仕上がり
写真データ D60 EF100ミリF2.8 絞りf16 ストロボ
ファイルサイズ(スモールファイン) ホワイトバランス昼光色