vol.76:この頃…

この頃よく物が壊れる。


バイオは2ヶ月に3回修理に出し、Macは初期化再インストール。そのためメールアドレスの大半を失ってしまった。家のドライヤーが壊れたかと思ったら、暗室のペーパー乾燥機もいかれた。たかが乾燥機というなかれ、プリントの作業効率が極端に悪くなる。


朝、仕事へ出かけようと車のイグニッションを回したらセルがキュンキュンと回るもののエンジンに点火しない。その日は諦めてアシスタントと2人、大荷物を抱えて電車で現場へ行った。ディーラーにレッカーしてもらい調べたら「イモビライザー」という聞いたこともない部分が壊れていた。1週間の修理の後戻ってきたら、今度はカーナビが壊れた。


今年は厄年にあたる。まあそんなもんだろう。嵐が過ぎ去るのをじっと待つように、このところおとなしくしている。


NYに住んでいるカメラマンの井上君(コラムvol32)が一時帰国。東京で「9.11」以降のNYの様子を写真展で発表するためだ。


事故直後の煙が上がる現場の写真から始まって、1周忌にあたる今年9月11日のセレモニーまで、モノクロ40点以上が展示されていた。写真の中に目立つのが「星条旗」の多さ。何かにつけ「フラッグ」が出てくる。他国のものから見るとあのフラッグの多さは異様にうつる。


(井上君のNY滞在記は「NY貧乏」として
http://www1.u-netsurf.ne.jp/~tanita/gaga-text/ny-top.html
で見ることができます。)


写真展のパーティや飲み会で懐かしい顔にも会えた。久しぶりにあった編集者に「渡部さんって、撮影中、被写体とほとんどコミュニケーションをとらないからすっごく心配なのに、上がって来る写真はいつもいいんだよねえ〜」と妙な褒め方をされる。うーん、やっぱりそう思っていたか。僕の担当はいつも心配しているんだろうか?


その井上君からニューマミヤ6と6MF、50ミリ付と75ミリ付を買った。彼のNY滞在費の足しになれば、というのは口実でマミヤ6は前々から欲しくて探していたのだ。なかなか程度と値段の折り合いが付かなくて半分諦めていたので嬉しい。それも一気に2台。お値段も下取りより高く、中古販売価格より安いというお互いにとって有意義なものだった。こう書いてしまうとカメラばっかり買っているしょうもないカメラマンと思われるだろうが、まったくそのとおりであるからにして申し開きのしようがない。妻にはまだないしょだ。


マミヤ6最高!こんなに使いやすい中版はない。マミヤ7という6×7cm版もあるが、なにせロクロクの正方形サイズは縦横切り替える必要がない。パッと構えてパッと撮れる。特に50ミリはシャープ。ハッセルの50ミリより良い。あんまり簡単に撮れるのでいささか拍子抜けするくらいだ。


井上君を始め、周りの人間で海外生活を経験する者が多くなってきた。今のアシスタントもアメリカ留学の経験があり、先代のアシスタントは11月からカナダにワーキングホリディのビザを使って1年間滞在予定。先々代のアシスタントも来年イタリアに住みたいと言っている。海外での生活経験がない僕にとってはなんともうらやましい。


海外移住は30歳半ばで一時考えたことはあったが実現するには至らなかった。もう子供もいたし踏ん切りをつけるには動機が曖昧だったせい(動機が現実逃避じゃあねえ)。



バリ島がテロにあった。規模のでかさに驚いた。去年NYへ行って1ヵ月後に「9.11」、今回もバリ島へ行ってきたばかりだ。安全だとばかり思っていたバリ島がテロの標的になるとは。




先月の終わりにバリ島へ行った影響か、今月の頭はヒマだった。カメラマンとしては甚だよろしくないことだがフリーなんてまあそんなもの。そうそう都合よくはいかない(ということに四十過ぎてようやく気がついた)。そんな時に冒頭にあった様にいろんな物が次々と壊れた。でも別にカリカリくることもなく対応できた。うまいことできているもんだ。これはきっと休みなさいと言う合図だと勝手に決めてのんびりしていた。


本を読んだり映画を見たり、写真展を回って夜は飲みに行ったり、マミヤ6を持って東京の写真を撮りに行ったり。後はHPの更新と頼まれた原稿書き。ぴかぴかの生サンマが20匹も届いたので刺身にして、糠付けにして、開きを作って食べる。たいしたこともしてないのに、あっという間に日は過ぎていく。


本は、バリ島へ行った時に成田で買った江國香織の「神様のボート」がとてもよかったので帰ってから「きらきらひかる」も買ってしまった。「神様のボート」ホンマタカシの写真が文庫本のカバーになっていて目を引く。カバーデザインとタイトルが気に入って手に取ったのだった。江國香織は始めて読んだ。


映画は「サイン」を見に行ったがまったくの興ざめ。予告編のほうが数倍面白い。もっとも予告編が気に入って見に行ったのだけど。見た人は分かるだろうけど、つっこみどころ満載。あ〜内容言いたい!でも楽しみにしている人もいるだろうからね。


逆に大して期待してなかったのに面白かったのは「猫の恩がえし」。あれだけ悪意のない映画もめずらしい。身構えるシーンが一つもないので見終えた後、身体が軽くなった気がした。驚いたことにその後、森田監督の撮影が入った。監督も悪意をまったく感じさせない気持ちのいい人だった。やっぱり作品にその人の性格は出るもんだ。




そろそろ仕事が恋しくなった頃にスケジュールが埋まり始めた。


明日からはまた忙しくなる。いいことだ。

(2002/10/16)