vol.32:Attack on America

いつものように風呂上り、ニュースステーションにチャンネルを合わせると、不鮮明な映像ながらビルが炎上しているのが分かった。日本ではないなと漠然と思っていると、突然飛行機が激突した。人間、自分の経験の範疇を超える事態を目にすると思考がストップしてしまうらしい。呆然とテレビを見ているうちに、NYに住んでいるカメラマンの友人のことが心配になった。彼は本格的に英語を学ぶために今年の2月からマンハッタンに住んでいる。ダウンタウンに学校があるといっていたのが気にかかり急いでメールを打った。一日経っても連絡がつかず心配だったが、無事の知らせを受け取り一安心。生きてさえいれば今度のことはNYでの最大の経験となるはず。以下は返信メールの全文です。井上匠さんに許可を受け掲載します。



「I'm alive.」2001年9月13日 4:20受信

皆様に御心配いただき申し訳在りません。ニューヨークは、今日一日中サイレンの音が止みそうにありません。

今朝は少し寝坊して、ちょうど1機目が突っ込む時間(8時50分)に家をでたので事件を知らず、途中でサブウエイが止まり最寄り駅で下車した後状況を何となく知りましたが、大事はないと思い学校まで歩いていました。どうも深刻な感じで学校(ワールドトレードから200m)が近くになるに従って道路が封鎖されていて事態の深刻さを悟るや否や、2機目が突っ込んだらしく(今思うと)爆発音とともに火花があがり皆、呆然として見ていました。アクション映画のようで現実と解るまで時間が懸かり見物してたら急に崩れだし、まるで火山の噴火のように煙りがやって来て皆パニック!悲しきかな、写真を撮りながら逃げました。500m以上離れていたので難は逃れましたが救助中だった消防士たちは真っ白で帰って来るし、そこらじゅう石灰撒いたみたいに白いし逃げてきた車はボコボコになってるし事の凄まじさにまだ唖然としています。地下鉄がストップしているので2時間掛かりで帰宅した後、事の全容を知りました。まさか旅客機が突っ込むとは!当分、学校なさそうです。Takumi Inoue



「その後の御報告。」2001年9月14日 3:45受信

昨日の惨劇から1夜明けましたが、未だWTCから煙りが上がっています。あまりにも多くの人たちが犠牲になりいたたまれません。2万人は下らないそうです。これからの救援活動も絶望的でしょうし確認は尚厳しいでしょう。悲劇と裏腹に昨日からの快晴の空が恨めしくも思えます。今思うと、現場から学校が非常に近かいのと、時間帯がクロスしていたのでもっと近くで見物などしていたらと思うとゾーッとします。9時にはニューヨーク市にテロアラートが曳かれていたそうで、早めの避難で皆、無事に避難していました。早めに学校に着ていたクラスメートなどは学校の上空から侵入した1機目の爆音と激突音を聞いたそうです。学校から避難の途中では不幸なことにビルからジャンプする人を目撃してしまいショックをうけている子もいて心配です。しかし皆、無事を互いに確認しあいホッとしています。ここ数年、治安もよく銃声も聞く事のすくないニューヨークでしたがまさかこんな事に成るとは!交通もダウンタウンは完全に麻痺、商店もクローズしているところがほとんどで、街では半旗がかかげられ、喪に服しています。学校はミッドタウンの校舎に移動しカフェテリア、ラウンジなどを使い再開されました。ダウンタウンの校舎は煙り、と埃で当分使えないそうです。Takumi Inoue



「Re」2001年9月18日 4:49受信

こちらの状況は少しずつ平常に戻りつつあり、ニュースタイトルもAttack on America から Raising Americaに土曜から変わりました。昨日キャナルストリート(チャイナタウンを横切っている)までいってみましたが様々な場所で追悼のキャンドル、黄色のリボンが飾られていました。またミッシングパーソンの貼紙もやはり多く、町中に見受けられます。現場近くは当然まだ立ち入り禁止でキャナルまでが現在の境界線になっています。ハドソン川沿いでは救難活動をする人たちに向かって、星条旗を手に持って感謝と激励をしにニューヨーカーたちが多く集まっていました。愛国心、連帯感の強さ、お互いに元気ずけ、助け合おうとする姿に感動させられます。しかし戦争になるとより多くの犠牲者を生む事になりこの愛国心がそちらに向かわない事を祈ります。Takumi Inoue